HARUMI FLAGに引っ越した中高の同級生2人の家に行った。東京オリンピック2020の選手村だったタワマンが立ち並ぶエリア。全面改装され新築として売りに出されている。同級生2人は中学1年生から付き合っていて、昨年籍を入れた。それで3年ほど前にここの1戸を買い、この1月からようやく住み始めたのだという。
新橋駅から東京BRTというバスに乗る。オリンピックにあわせて開通した路線らしい。レインボーカラーのテープが巻かれたようなデザインの車体。いかにも東京都って感じ。 ギャルっぽいノリの中学生くらいの女の子たち8人くらいと乗り合わせる。なんの用があってこのバスに乗るのだろう。公園で散歩でもするのか、誰かの家にでも行くのか。よくわからない。
10分弱走って1つ目の「はるみらい」という停留所で降りる。はるみらいは中央区立の地域交流センター。隣に商業施設のららテラスがある。サミットやダイソー、本屋、ファミレスなどが入っている。ランチでロイヤルホストへ。わたしたち以外のグループがもれなく子連れのファミリーで驚いた。この2、3年ですっかりベッドタウンになったのだろう。
同級生の家はタワマンの10階だった。リビングの手前中央に料理教室のような大きなキッチン、 奥のベランダは海に面していて豊洲が見える。物が少なくがらんどうのような部屋だ。押し入れを見せてもらうと薬箱や紙袋の山などさまざまな日常生活用品が乱雑に詰められていて少し安心した。居住者は隣接するマンションのラウンジや屋上も共有スペースとして利用できるのだという。隣のマンションの高層階にあるラウンジに行くと、子どもが2人並んでイスに座ってゲームをしていた。いつもそこで遊んでいるのだそうだ。
駐車場のある地下1階へエレベーターで降りる。途中の階で停まり、ドアが開くとモップを持った清掃のおじさんが立っていた。おじさんは「どうぞ」と言って乗りあわせない素振りを見せた。同級生が乗るように勧めると、おじさんは「すみません、こんな変なの持ってるのに、すみません」とうやうやしく頭を下げて申し訳なさそうに乗りこんだ。地下1階に着くと、おじさんは開くボタンを押しながら「申し訳ありませんでした、さ、どうぞ」と言ってわたしたちに先に降りるよう勧めた。おじさんのふるまいは仰々しくてどこか奇妙だった。青山真治の遺作(になってしまった)『空に住む』でタワマンに突然住むことになった主人公を演じる多部未華子が、確かその地下階にあるゴミ焼却場でマンションのコンシェルジュである柄本明と出くわすというシーンがあったのだが、それを思い出した。奇妙な居心地の悪さ。おじさんのせいではない。高低差が人にそうしたふるまいをさせる。
帰りのバスの窓からHARUMI FLAGを眺める。どこもかしこも同じような見た目のマンションが並ぶ。ちょっとした柱や壁など、このエリアのいたるところにTOKYO 2020という文字が書かれていたり、オブジェが置いてあったりする。ゲームで誰かが作ったみたいな空間。街ではないな、と思う。ゲームのほうがまだ生活感があるかもしれない。同級生の部屋の窓から見えた隣のマンションのベランダに衣類や布団が干されていて、「あそこは生活感があるね」と言ったら「ちょっとダサい」と言っていた。ここはそういう場所なのだろう。